2005年06月
2005年06月30日
不動産コンサルタント始末記 相続対策 9
倉橋は、山本から小林の自宅の不動産鑑定評価額を電話で聞き、本来であればもっと下がる筈だと主張はしてみたものの、山本の態度から、これ以上下げることは難しいと判断し、あと少し頑張ってもらうよう伝えた。
「先生、いくらになったんですか。」
小林の貸している倉庫の敷地を、実態にそって倉橋と一緒にテナントを回りながら測量を進めていた伊東が倉橋に聞いた。
「1億は、切りました?」
「いや、1億4000万円だって。」
結果については、まだまだ不本意ではあるが、山本の評価で、ここまで下がれば、々問題は生じない。
「多分、山本先生が努力した結果でこの評価であれば、ここまでが限界かも知れない。」
「でも先生、4億円の評価が1億4000万円なんだから大成功じゃないの。」
伊東は、倉橋に慰めるように言った。
倉橋は評価額については、もう少し下がると予想はしていたものの、この結果について不満ではなかった。
山本は、いつも限界まで挑戦してくれる不動産鑑定士である。ある意味、倉橋は、山本がやって、ここまでとなれば、それ以上は無理であることを知っていた。
当初、小林家の相続は、2億2000万円程度の相続税がかかる計算であり、生命保険と現金を合わせても3000万円しか金融資産はなく、明らかに1億9000万円程度の資金がショートする小林家の相続であった。概ね交通事故での賠償金5000万円程度は見込めるものの、それでも1億4000万円は確実にショートする、明らかに相続破産のパターンであった。ところが山本の不動産評価によって遺産総額は確実に下がり、現時点では、相続税が1億2000万円程度まで圧縮できた。
また、先日、小川製作所に畑を売ったことで資金が3700万円入っており、生命保険と現金が3000万円あるから、後は5300万円で足りることになる。
取り敢えず、交通事故の賠償金が5000万円入ってくれば、ほとんど資金のショートは解決できることになる。
「先生、相変わらず凄いね。」
伊東は、測量をしながら倉橋の説明を聞き、何だか狐に抓まれたような顔で言った。
「小林さん、先生がいなかったら大変でしたよね。」
「いやぁ、亡くなった小林さんの人徳じゃないの。運がいいんですよ。」
そう言いながら、倉橋は付け加えた。
「でも、世の中には、相続税の申告の仕組みを知らずに一財産失っちゃう人って多いんだよね。無知からくる利益の喪失って言うかさ、世の中に我々のような仕事をする会社って少ないから仕方がないかもしれないけど、資産家や地主も、欧米並みにパートナーシップのとれるコンサルタント会社と付き合えばいいのにね。」
「先生、良い知らせです。」
いよいよ測量の段取りも終わる頃、某地方銀行の塚本から、倉橋の携帯電話に連絡が入った。
「先日の小林さんの相続税納税資金、今日本部から正式に承認が下りました。」
「あ、そう。」
塚本の明るく自信に満ちた声とは裏腹に、倉橋の声は曇った。万一、納税資金がショートしたときを考え、融資の打診をしていたのである。
「で、どんな回答。」
「頑張りました。」
銀行員にしておくのはもったいない程の営業マンの塚本は、自身たっぷりに言った。
「1億円、20年の長期返済です。金利は、通常金利の0.3%引かせてもらいます。どうです、頑張ったでしょう。」
「ん〜、ごめん。謝まんなくちゃならないことがあるのね。」
電話の向こうで、塚本の酷く落胆した表情を感じながら、倉橋は言った。
「お金、いらなくなっちゃいそうなんだ。」
「えっ。」塚本は、声をつまらせた。
「どう言うことですか。」
「相続税、半分くらいになっちゃう感じなんだよね。」
「そんな殺生な。」
関西人でもない塚本は、そんな言葉で落胆した表情を示した。
「先生、じゃぁ、相続が終わったら小林さんに投資物件でも買ってもらってくださいね。」
「わかった、了解です。」
倉橋は、小林の資産背景から、賃料収入の少なさを実感していた。
「いま測量している土地に、将来、収益物件を建築するから、その際、必ず塚本君のところから借りるからさ、今回の件は勘弁して。調査費用は、うちの口座から落としておいてくれればいいから。」
「先生、都銀さんはなしですよ。」
営業マンらしく、押さえを入れてから、塚本は、快く納得して電話を切った。
「先生、たまには食事でもしましょうか。」いよいよ小林の所有する全部の土地の測量を終え、一通り思惑通りに話が進んだことから、倉橋は伊東に言った。
「いいですね、先生。約束どおり奢ってくれる。」
伊東はそう言うと、ニコニコしながら資材を片付け出した。
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2005年06月28日
不動産コンサルタント始末記 相続対策 8
「それでは税務署も納得しないでしょうから、ちゃんと根拠のある計算をしましょう。」小林の自宅敷地の価格について、倉橋は、不動産鑑定士の山本に対し、不動産業者が購入するとなれば、限りなく「0」に近い金額である旨の根拠を延々と説明していた。
「倉橋社長、ご無沙汰しております。」打合せの途中、日研土木の土木部長、嵯峨野が加わった。
倉橋の打合せは、テーマごとに関係者を順に呼んで行うことが多い。説明が必要な関係者を順に呼んで、ある程度説明が進んだ段階で次の人を入れて打合せを行い、最終的には、その日のうちに全員が納得した状態で仕事についてもらう。そうすることによって、聞き間違いや伝達を間違えることもないし、仮に倉橋が出張中のときも、この打合せに参加した人同士で更に打合せができる仕組みにしている。
「この嵯峨野部長には、この土地の造成工事の見積もりをお願いすることにしています。」倉橋は、そういうと小林の自宅敷地のコンタ割図に3角スケールをあてながら説明をした。「ほらね、この土地を宅地造成して仕上げるとすると、前面道路に接する部分はかなりの擁壁を作らなければならないし、裏側の崖は、もっと厳しい擁壁を造らなきゃならないでしょ、それに位置指定道路を2本いれるとすると、車返しもそれぞれ必要になるよね。結局、この土地を販売できるようにするには、この造成費用がかかってくるわけだから、その費用は、当然、評価額から差引かなけりゃ不公平ですよね。」倉橋は、自らの持論を展開しながら不動産鑑定士の山本に対しアピールした。
「ん〜、確かに先生の言うとおりですけどね。」山本は、ちょっと困惑した表情で答えた。「ざっくりどのくらいの費用が掛かりますかね。」山本は、嵯峨野に聞きなおした。
「これだけの工事をすれば、2億円は最低掛かるでしょうね。」電卓をたたきながら、嵯峨野は言った。「でも、この裏の擁壁は、かなり難しいですね。これだけ高低差があると3段位の擁壁が必要になるかもしれません。そうすると、正味、使える敷地は3割以下かもしれませんよ。」
「ですよね。嵯峨野さん、この土地、このまま4億円で売れると思います?」倉橋は、嵯峨野に言った。
「え〜、とても無理でしょう。」嵯峨野は本気で驚いていた。「これ、造成費用、出ないんじゃないですか。」
倉橋は、にこにこ笑いながら、山本の方を見た。「でね、山本先生。嵯峨野さんに実態にあった造成図面と見積書を作成してもらいます。この図面と見積書は、誰が見ても客観的に問題がない状態までにしてもらいます。」倉橋は、不動産鑑定士の立場の山本に対し、職業柄の問題が生じないような説明をした。「私としては、山本先生に宅地造成上がりの土地の総額の評価を出してもらって、そこから嵯峨野さんの出してくる見積もり金額を差引いた金額で評価額を出してもらいたいんです。」
「なるほど、このような土地の場合、そのほうが評価額は明らかに下がりますね。」山本も倉橋の理論に納得した。「嵯峨野さんからの図面と見積もりは、どの位でできますか。」
「そうですね、最低、2週間位ですかね。」嵯峨野は、倉橋の顔をチラッと見た。「いや、10日位で何とかしましょう。」
倉橋は、宅地造成等の工事について概ね3社と取引をしており、日研土木は、その内の一社である。このような見積もり作業については、面倒な上、本当に造成するわけではないから、企業としてはあまり商売にはならないが、長い付き合いの中で協力はしてくれていた。
倉橋は倉橋のほうで、いつも発注側であるからといって甘えることなく、その都度、掛かる費用については、ちゃんと立替えてでも支払っているから、信頼関係は厚いものがある。
「そうしてくれると、助かります。」倉橋は、素直に感謝して言った。
倉橋、伊東、山本、そして嵯峨野との打ち合わせの後、相変わらず倉橋と伊東は、小林の所有する土地の測量を行っていた。
残りは300坪の土地上に建っている倉庫と駐車場の利用用途に合わせた区画割を行えば、概ね所有財産の内、不動産の部分については決着がつく。この区画割を明確にするという作業は、地味な作業であるが、路線価格で申告する場合、奥行長大補正率や間口狭小補正率、その他かげ地割合などによる割引率を有利にとることによって、意外に価格は下がるものである。
「先生ですか。」小林の倉庫を借りているテナントと打合せをしている最中、山本から倉橋の携帯電話に連絡が入った。「先日の件、何とか1億4000万円位まで下げられるようになりました。」山本の声は、妙に明るかった。
2005年06月26日
不動産コンサルタント始末記 相続対策7
袋地の土地をあっさりと小川製作所に売却を決め、倉橋と伊東測量事務所の伊東は、他の土地の測量を進めていた。
本来、相続対策は、被相続人が生きているうちに準備するものである。
通常、倉橋の手法としては、不動産は、即時、売却や物納ができる状態に整備しておくように心がけており、相続が発生した時点では、ほぼ物納や換金ができる状況にしておくようにしている。ところが、今回の小林の相続は、突然の事故死のため、準備に相応な時間すら掛けていられない状況であり、ぶっつけ本番で、相続開始後10ヶ月の時間内にすべて決着をつける必要がある。
「しかし地主さんって言うのはいつも思うんだけど、自分の土地に興味がないのかねぇ。」伊東は、倉橋に率直な感想を漏らした。
小林の土地は、ほぼ全部が測量等を行っておらず、不整形の土地のまま、隣接地の所有者と境界の立会い等を行っていなかった。
「とりあえず相続税の申告用には、現況測量でもいいかもしれないけど、せっかくだから、この際、隣地も立会い同意を得た方がいいですよね。」
「もちろん、そうしてください。」倉橋はそう言うと、付け加えた。「地主さんって、測量して縄伸びなんかすると、税金が高くなるからって嫌がる人、本当に多いからね。ほとんど、後で誰かが苦労するってこと考えてないよね。」
そんな他愛ない話をしながら、倉橋と伊東は、倉橋の経営するCFネッツの港南台オフィスで着々と測量の行程を具体的に打合せした。
「こんにちは、ご無沙汰です。」倉橋と伊東の打合せに、ついでだからと、その日、不動産鑑定士の山本に同席するよう支持していた。
山本は、倉橋に挨拶すると、伊東にも丁寧に名刺を差し出しながら挨拶をした。
「はじめまして、山本鑑定事務所の山本です。」
倉橋は、いつも、このような仕事に取り組む際、専門家のチームを作り、自らがいないときにも直接打合せができるよう、このように顔つなぎをすることが多い。
「山本先生、一応、今回は自宅部分のみを鑑定評価で申告しようと思っています。」倉橋は短決に山本に指示を行った。「この自宅、路線価での評価は4億円にもなるんですが、実際、売ろうと思っても、とてもそんな金額で売れる代物じゃありません。」
「一応、これが私の簡易評価です。」山本は、一枚の紙に書いた概算の簡易評価額を倉橋に手渡した。山本も、倉橋とは多くの取引を行っており性格も知っているから、打合せの際には事前に物件を下見し、簡易評価を持参して打合せするようにしている。「概ね、半額の2億円には下がると思います。」
「いやいや、先生。私は、そうは思っていませんよ。」倉橋は、にこにこしながら山本に詰め寄った。「先生、これ、突然この土地を買ってくれって不動産屋さんに行ったとしますよね。いくらで売れますかね。」
「ん〜、そういわれると、確かに2億円では無理かもしれませんよね。」
山本は不動産鑑定士らしからぬ表情で、あっさりと倉橋の意見に納得した。
「伊東先生、コンタ(高低測量)割図、できてましたっけ。」倉橋は、伊東にコンタ割図を出させ、説明した。「我々、この土地を買おうとすれば、まず造成工事の見積もりを出しますよね。」倉橋はコンタ割図をコピーして、その上に造成宅地の絵を書きながら説明した。
「ここは第一種低層住居専用地域ですから高度利用してマンションの建築なんかできません。従って、住宅用地として宅地造成を行い、売却するしかないんです。そうするとね、道路部分も当然売買対象面積にはならないし、ここまで傾斜がきつければ法面の面積もかなり出てきます。」
「なるほどね。さすが先生は不動産屋だ。」山本は不動産鑑定士であるから、土地の評価額を算定することは得意であるが、やはり実務的な感性は倉橋には勝てなかった。「これで行くと、有効宅地は4割くらいになりますかね。」コンタ割図に3角スケールをあてながら、ざっくりと倉橋が書いた宅地造成のイメージ図を見ながら、山本が言った。
「そうそう、ひょっとするともっと少ないかもしれません。」倉橋は、山本と伊東に言った。「ここは崖地割合を差引いても、路線価だと4億円以上の評価になっちゃいますよね。一般的にみると1500坪で4億円だから坪当たり約26万7千円だから安いように感じてしまうけど、我々、業者からみると、とんでもなく高いんですよ。」
「で、先生だったら、いくら位と考えているんですか。」山本は、倉橋に率直に尋ねた。
「計算してみないと分かりませんが、私だったらタダでもいらない。」倉橋がそう言うと、山本も、伊東も笑わなかった。