2005年05月28日
不動産コンサルタント始末記 10
第10話 法廷
「どうなんですか、吉田さん。」
裁判官が、絶句している吉田に発言を促した。
「間違えました。最初から8万円です。」
吉田は、必死になって答えた。
「僕が権藤という人に騙されて、家賃15万円と聞いて買ったのですが、本当は8万円だったんです。」
「じゃあ、最初から8万円で間違いないのね。」
裁判官は、うんざりした表情で吉田に言った。
「ところであなたね、被告、つまり前田さんにね、会ったことあるの。」
倉橋も廣瀬も、まずい、と思った。
ここで会ってもいないとなると、債務について疑義が生じる。
こちらとしては家賃など8万円でも7万円でも、そんなことはどうでもよく、契約解除が認められ、明渡しの債務名義が取れれば良いのである。
「あ、あります。親子でここに住んでいます。」
まじめな吉田は、法廷で嘘をついた。
「僕が直接本人に会って、8万円であることを聞き出しましたので、間違いありません。」
「ん〜、前田さんも一度、呼んだほうがいいかなぁ。」裁判官が、疑わしい目つきで吉田を眺めて言った。
「裁判官、お願いです。何とか判決をもらえませんでしょうか。」吉田は必死で懇願した。
「正直言って、このマンションを購入して、家賃が入ってこないことによって、僕自身が消費者金融から多額な借金を抱えてしまいました。」
勝手に話し出した吉田に対し、書記官が静止しようとした所、裁判官が書記官を逆に静止し、吉田にしゃべらせた。
「僕は役場に勤めていて、その消費者金融からの矢のような催促に耐え切れなくなり、死のうとも思いました。だけど、父親が、務めていた学校を定年前に退職して、の退職金で一応の借金を返済することができましたが、このままでは、また、行き詰まってしまいます。」
気弱な吉田には珍しく、かなり高揚した声で裁判官に訴えた。
傍聴人席にいた人たちも興味をもったのか、じっと吉田を見つめていた。
「このままでは、両親に申し訳ないんです。僕が、こんなことさえしなければ、父親も、学校を辞めなくても済んだのに...。」
握りこぶしを原告席の机に押し付け、高揚した吉田の顔は真っ赤だった。
「僕は、僕は、自分の見栄の為に、両親の人生を狂わしてしまったんです。」
あろうことか、吉田は法廷で泣き崩れてしまった。
「わかった、分かりましたから、落ち着いて椅子にお座りなさい。」これには、裁判官も慌て、書記官が吉田を抱えるように椅子に座らせた。
「被告つまり前田さんね、本当に18ヶ月以上も家賃を滞納しているのね。」
「はい、間違いありません。」
椅子に座らせられた吉田は、涙も拭かずに呆然とした口調で答えた。
「あなた、役場に勤めているって言ったけど、公務員?。」裁判官は、唐突に吉田の身分を尋ねた。
「はい。地方公務員です。」
「あなた、公務員なんだから、今後は気をつけなさいね。公僕なんだから。」裁判官も、そういえば公務員である。
意味は不明であるが、同胞意識なのか、ま、公務員だから嘘はつかないだろうとの判断なのか、裁判官が吉田の方を笑顔で見ながら言った。
「本件は終結します。1週間後、判決します。以上、ご苦労様でした。」
力なく、吉田は原告席を後にし、傍聴人席の倉橋と廣瀬と合流して、裁判所を
後にした。
「いやぁ、みっともない所をお見せしました。」
廣瀬の運転する車の後部座席に、倉橋と吉田が座ると、吉田が頭を掻きなが
ら誰にともなく言った。
「おまけに、嘘、ついちゃいました。」
「いやぁ、上出来ですよ。」倉橋が吉田に慰めるように言うと、廣瀬はバックミラー越しに笑顔を見せた。
「1週間で判決ですから、かなりのスピード判決です。これも、吉田さんの迫真に迫った説得力のお陰です。良かったですよね。」
「先生、この後は、どんな感じになるんですか。」
「判決が出次第、執行文付与申請を行います。これは、吉田さんがこなくても手続きは取れます。」倉橋が手続きの流れを吉田に説明した。
「その後、室内の動産を差し押さえて、競売と明渡しの強制執行を行います。これも手続き的には、こちらで行えますので、吉田さんはわざわざ出てこなくても大丈夫です。ただ、差し押さえのときには強制的に室内に入りますので、吉田さんの立会いが必要です。当然、そのときには私たちも立ち会いますから、心配はいりません。」
「じゃあ、もう、裁判所にはこなくて良いんですか。」
吉田は、驚いたように倉橋に言った。
「もう、結審しましたからね。裁判所には行きせんよ。」
裁判などしたことのない吉田にとって、裁判の仕組みなど理解できないのかもしれないなと思いながら倉橋は言った。
「一般の人は、裁判って言うとすごく難しいイメージがありますが、やってみると簡単でしょ。」
「いやぁ、驚きました。こんなに簡単だとは思いませんでした。」
呆気に取られた様子で吉田がいうと、廣瀬が運転席から笑いながら言った。
「どんなに優秀な弁護士でも、吉田さんのように切迫して裁判官に迫れる人はいませんよ。」
そして、皮肉をこめて
「公務員でもないしね。」と言った。
・・・続きは、また、お届け致します!
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「僕が直接本人に会って、8万円であることを聞き出しましたので、間違いありません。」
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「裁判官、お願いです。何とか判決をもらえませんでしょうか。」吉田は必死で懇願した。
「正直言って、このマンションを購入して、家賃が入ってこないことによって、僕自身が消費者金融から多額な借金を抱えてしまいました。」
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傍聴人席にいた人たちも興味をもったのか、じっと吉田を見つめていた。
「このままでは、両親に申し訳ないんです。僕が、こんなことさえしなければ、父親も、学校を辞めなくても済んだのに...。」
握りこぶしを原告席の机に押し付け、高揚した吉田の顔は真っ赤だった。
「僕は、僕は、自分の見栄の為に、両親の人生を狂わしてしまったんです。」
あろうことか、吉田は法廷で泣き崩れてしまった。
「わかった、分かりましたから、落ち着いて椅子にお座りなさい。」これには、裁判官も慌て、書記官が吉田を抱えるように椅子に座らせた。
「被告つまり前田さんね、本当に18ヶ月以上も家賃を滞納しているのね。」
「はい、間違いありません。」
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「あなた、役場に勤めているって言ったけど、公務員?。」裁判官は、唐突に吉田の身分を尋ねた。
「はい。地方公務員です。」
「あなた、公務員なんだから、今後は気をつけなさいね。公僕なんだから。」裁判官も、そういえば公務員である。
意味は不明であるが、同胞意識なのか、ま、公務員だから嘘はつかないだろうとの判断なのか、裁判官が吉田の方を笑顔で見ながら言った。
「本件は終結します。1週間後、判決します。以上、ご苦労様でした。」
力なく、吉田は原告席を後にし、傍聴人席の倉橋と廣瀬と合流して、裁判所を
後にした。
「いやぁ、みっともない所をお見せしました。」
廣瀬の運転する車の後部座席に、倉橋と吉田が座ると、吉田が頭を掻きなが
ら誰にともなく言った。
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「じゃあ、もう、裁判所にはこなくて良いんですか。」
吉田は、驚いたように倉橋に言った。
「もう、結審しましたからね。裁判所には行きせんよ。」
裁判などしたことのない吉田にとって、裁判の仕組みなど理解できないのかもしれないなと思いながら倉橋は言った。
「一般の人は、裁判って言うとすごく難しいイメージがありますが、やってみると簡単でしょ。」
「いやぁ、驚きました。こんなに簡単だとは思いませんでした。」
呆気に取られた様子で吉田がいうと、廣瀬が運転席から笑いながら言った。
「どんなに優秀な弁護士でも、吉田さんのように切迫して裁判官に迫れる人はいませんよ。」
そして、皮肉をこめて
「公務員でもないしね。」と言った。
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