2005年05月31日
不動産コンサルタント始末記 12
第12話 差押
判決が出た後、早速、執行文の付与手続きを行い強制執行の手続きに入った。
滞納賃料の支払い請求、及び建物明渡請求による訴訟の場合、確定判決や仮執行宣言付判決をとったからといって、直ちに強制執行ができるものではない。
強制執行を求める場合、その判決に執行文の付与という手続きを行い、かつ、その判決の送達証明書を取得してから、その強制執行を行う不動産の所在地を管轄する地方裁判所の執行官室に強制執行の申立てを行わなければならない。
「いやぁ、びっくりしましたよ。」
廣瀬が強制執行手続きを行い、2週間ほどして吉田から電話が入った。
「役場にやくざみたいな口調で電話が入って、またサラ金からの電話だと勘違いしました。」
吉田は、執行官からの電話の印象を廣瀬に伝えた。
「だいたい執行官って、気短な人が多いんですよ。」廣瀬は笑いながら吉田に言った。
「ああじゃないと、務まんないのかもしれませんね。」
「再来週の水曜日、先生と廣瀬さんのご都合は如何ですか。」
吉田は、執行官から言われた日時で倉橋と廣瀬の都合を聞いた。
「執行官がすぐに電話をよこせって言うんです。」
「毎週水曜日は当社の定休日ですから、私は大丈夫です。たぶん倉橋も大丈夫でしょう。」廣瀬は、吉田に言った。
「それで予定を入れちゃってください。」
廣瀬は、倉橋の執筆業務が遅れており、その日、自宅書斎で執筆する予定を知っていた。
強制執行の前には、まず建物内の動産を差し押さえるのと同時に、建物明渡しの言渡しを行う。
その際、当事者、執行官、第三者が立会い、執行官が建物内部にある被告の家財を差し押さえ、差押動産の明細書と明渡命令を作成し、目の届く所に貼り付ける。
昔は差押が行われると通称赤紙といった差押札を貼り付けたようであるが、近年はプライバシーの侵害などの理由から差押動産を一覧表にして貼り付けるようになっている。
「廣瀬、秀栄さんに電話して。」廣瀬から差押期日の報告を受けると、また原稿が遅れるな、と思いながらも倉橋は差押の段取りを廣瀬に指示した。
「今回は強制執行断行の可能性が大きいから、交渉も含めて依頼しといてね。」秀栄とは、いわゆる道具屋と呼ばれる業者である。
建物明渡しの強制執行の場合、差し押さえた動産は自ら競落して処分してしまえばよいが、差し押さえのできない動産、いわゆる差押禁止動産の類は、一定の期間保管しなければならない。
それらの業務一切を仕切ってくれるのが、このいわゆる道具屋と呼ばれる業者なのである。
倉橋は関東圏内の強制執行には、いつもこの秀栄という業者を使っている。
というのは、こういった業者は、あまり一般的な業種ではないため利用者に信用がないとかなり高額な費用を請求される。
倉橋はこの業者とは長い付き合いであり、費用もかなり安く請け負ってくれるから依頼者に有利な取り計らいができる。
また道具屋も、自己経費を圧縮するため、保管家財等はなるべく処分できるよう差押日から強制執行当日までの間に被告(債務者)から放棄書という文書を取得するよう努力する。
詳細は不明であるが、多分、債務者と金銭解決により放棄書を取得するのだろう。
この放棄書があれば強制執行当日に保管荷物を処分することができるため、道具屋も依頼者もわずらわしい保管行為を回避することができる。
この辺のノウハウがある業者とない業者では、依頼者のストレスが大きく変わってくることになる。
「倉橋先生、いつもお世話になります。」
秀栄の社長、高橋が愛想よく挨拶をした。
「相変わらず、先生のところは強制執行が多いですね。」
「人聞きの悪いこといわないでよ。」吉田、廣瀬のいる物件の前で、倉橋は高橋に言った。
「これ、うちの管理物件じゃないないからね。」
差押日の当日、4人は前田の自宅前で執行官を待っていた。
差押日の当日は、通常、原告、第三者、執行官の三者で立会いのもと差押を決行する。
その際、その物件内に立ち入れないと差押不調となるため、その部屋の鍵が必要となる。本件建物の鍵を吉田は持っていないため、別に鍵屋も呼んでいた。
「鍵は、ジェイファースト?」 倉橋は、廣瀬に確認した。
ジェイファーストは、倉橋の弟が経営するリフォーム業者であるが、倉橋の指示で何でもやるため重宝に使っている。
「あいつ、もう来てるの。」
「さっき、エントランスにいましたから、執行官と一緒に上がってくるんじゃないですか。」廣瀬が何だか楽しそうに答えた。
「それより、前田さん、中にいますかね。」
「いた場合、どうなるんですか。」 吉田は、廣瀬とは対照的に不安げに言った。
「差押は中止ですか。」
「中止なんて、あるもんか。」 高橋が吉田に言った。
「差押も強制執行も、執行官がついてりゃぁ債務者は関係ないんだ。先生がついてるから、安心しなよ。」 乱暴な口調で言った。
「噂をすれば何とかだぜ。執行官の登場だ。」
共用廊下からエントランスを見下ろしたところで、1台のタクシーから執行官が降りてくるのが見えた。
執行官は薄手のコートに帽子をかぶった格好で、ジェイファーストの倉橋が愛想よく出迎え、こちらに案内をしてくる様子が見えた。
「原告、吉田さんは、誰?」 我々一団と向かい合い、執行官は言った。
「はい、私が吉田です。」
「執行官の山田です。」執行官は電話口での口調と打って変わり、やさしい声で言った。
「あ、今回も高橋さんがやるのね。」
秀栄の高橋はほとんどの執行官とは顔なじみのようである。
「ま、それならスムーズにいきますね。」 執行官は時計を見た。
「9時10分。では、差押手続きを開始します。」
執行官の合図で、廣瀬がインターホンのスイッチを押した。
「前田さん、いらっしゃいますか。前田さぁん。」何度か声をかけたが、中からの反応はなかった。
「じゃあ、倉橋さん、鍵、壊してください。」ジェイファーストの倉橋に廣瀬が指示を出した。
「了解。」ジェイファーストの倉橋は、手際よく玄関扉の鍵を壊しだした。
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判決が出た後、早速、執行文の付与手続きを行い強制執行の手続きに入った。
滞納賃料の支払い請求、及び建物明渡請求による訴訟の場合、確定判決や仮執行宣言付判決をとったからといって、直ちに強制執行ができるものではない。
強制執行を求める場合、その判決に執行文の付与という手続きを行い、かつ、その判決の送達証明書を取得してから、その強制執行を行う不動産の所在地を管轄する地方裁判所の執行官室に強制執行の申立てを行わなければならない。
「いやぁ、びっくりしましたよ。」
廣瀬が強制執行手続きを行い、2週間ほどして吉田から電話が入った。
「役場にやくざみたいな口調で電話が入って、またサラ金からの電話だと勘違いしました。」
吉田は、執行官からの電話の印象を廣瀬に伝えた。
「だいたい執行官って、気短な人が多いんですよ。」廣瀬は笑いながら吉田に言った。
「ああじゃないと、務まんないのかもしれませんね。」
「再来週の水曜日、先生と廣瀬さんのご都合は如何ですか。」
吉田は、執行官から言われた日時で倉橋と廣瀬の都合を聞いた。
「執行官がすぐに電話をよこせって言うんです。」
「毎週水曜日は当社の定休日ですから、私は大丈夫です。たぶん倉橋も大丈夫でしょう。」廣瀬は、吉田に言った。
「それで予定を入れちゃってください。」
廣瀬は、倉橋の執筆業務が遅れており、その日、自宅書斎で執筆する予定を知っていた。
強制執行の前には、まず建物内の動産を差し押さえるのと同時に、建物明渡しの言渡しを行う。
その際、当事者、執行官、第三者が立会い、執行官が建物内部にある被告の家財を差し押さえ、差押動産の明細書と明渡命令を作成し、目の届く所に貼り付ける。
昔は差押が行われると通称赤紙といった差押札を貼り付けたようであるが、近年はプライバシーの侵害などの理由から差押動産を一覧表にして貼り付けるようになっている。
「廣瀬、秀栄さんに電話して。」廣瀬から差押期日の報告を受けると、また原稿が遅れるな、と思いながらも倉橋は差押の段取りを廣瀬に指示した。
「今回は強制執行断行の可能性が大きいから、交渉も含めて依頼しといてね。」秀栄とは、いわゆる道具屋と呼ばれる業者である。
建物明渡しの強制執行の場合、差し押さえた動産は自ら競落して処分してしまえばよいが、差し押さえのできない動産、いわゆる差押禁止動産の類は、一定の期間保管しなければならない。
それらの業務一切を仕切ってくれるのが、このいわゆる道具屋と呼ばれる業者なのである。
倉橋は関東圏内の強制執行には、いつもこの秀栄という業者を使っている。
というのは、こういった業者は、あまり一般的な業種ではないため利用者に信用がないとかなり高額な費用を請求される。
倉橋はこの業者とは長い付き合いであり、費用もかなり安く請け負ってくれるから依頼者に有利な取り計らいができる。
また道具屋も、自己経費を圧縮するため、保管家財等はなるべく処分できるよう差押日から強制執行当日までの間に被告(債務者)から放棄書という文書を取得するよう努力する。
詳細は不明であるが、多分、債務者と金銭解決により放棄書を取得するのだろう。
この放棄書があれば強制執行当日に保管荷物を処分することができるため、道具屋も依頼者もわずらわしい保管行為を回避することができる。
この辺のノウハウがある業者とない業者では、依頼者のストレスが大きく変わってくることになる。
「倉橋先生、いつもお世話になります。」
秀栄の社長、高橋が愛想よく挨拶をした。
「相変わらず、先生のところは強制執行が多いですね。」
「人聞きの悪いこといわないでよ。」吉田、廣瀬のいる物件の前で、倉橋は高橋に言った。
「これ、うちの管理物件じゃないないからね。」
差押日の当日、4人は前田の自宅前で執行官を待っていた。
差押日の当日は、通常、原告、第三者、執行官の三者で立会いのもと差押を決行する。
その際、その物件内に立ち入れないと差押不調となるため、その部屋の鍵が必要となる。本件建物の鍵を吉田は持っていないため、別に鍵屋も呼んでいた。
「鍵は、ジェイファースト?」 倉橋は、廣瀬に確認した。
ジェイファーストは、倉橋の弟が経営するリフォーム業者であるが、倉橋の指示で何でもやるため重宝に使っている。
「あいつ、もう来てるの。」
「さっき、エントランスにいましたから、執行官と一緒に上がってくるんじゃないですか。」廣瀬が何だか楽しそうに答えた。
「それより、前田さん、中にいますかね。」
「いた場合、どうなるんですか。」 吉田は、廣瀬とは対照的に不安げに言った。
「差押は中止ですか。」
「中止なんて、あるもんか。」 高橋が吉田に言った。
「差押も強制執行も、執行官がついてりゃぁ債務者は関係ないんだ。先生がついてるから、安心しなよ。」 乱暴な口調で言った。
「噂をすれば何とかだぜ。執行官の登場だ。」
共用廊下からエントランスを見下ろしたところで、1台のタクシーから執行官が降りてくるのが見えた。
執行官は薄手のコートに帽子をかぶった格好で、ジェイファーストの倉橋が愛想よく出迎え、こちらに案内をしてくる様子が見えた。
「原告、吉田さんは、誰?」 我々一団と向かい合い、執行官は言った。
「はい、私が吉田です。」
「執行官の山田です。」執行官は電話口での口調と打って変わり、やさしい声で言った。
「あ、今回も高橋さんがやるのね。」
秀栄の高橋はほとんどの執行官とは顔なじみのようである。
「ま、それならスムーズにいきますね。」 執行官は時計を見た。
「9時10分。では、差押手続きを開始します。」
執行官の合図で、廣瀬がインターホンのスイッチを押した。
「前田さん、いらっしゃいますか。前田さぁん。」何度か声をかけたが、中からの反応はなかった。
「じゃあ、倉橋さん、鍵、壊してください。」ジェイファーストの倉橋に廣瀬が指示を出した。
「了解。」ジェイファーストの倉橋は、手際よく玄関扉の鍵を壊しだした。
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