2005年06月01日
不動産コンサルタント 始末記 13
第13話 ステレオ
「あんた達、なにすんの。」
扉を開けると、前田と娘は食卓で遅い朝食をとっていた。
「勝手に家に入ってくるなんて、警察呼ぶわよ。」
「どうぞ、お呼びになりたければ呼んでください。」さすがに執行官も苦笑していった。
「私、執行官の山田です。本日は、あなたの動産、つまり家財等ですね、差押手続きにきました。」
執行官は、秀栄の高橋に目配せをし、玄関で靴を脱いで部屋に入った。
「始めにお話しますが、妙な邪魔をすれば公務執行妨害になります。その際、今度は私が警察を呼ぶことになりますので、ご注意ください。」
「一体、何をしようって言うんですか。やめてください。」
今度は倉橋と廣瀬に向かって前田は言った。
「黙って出てゆけば、良いんじゃないんですか。」
執行官の山田と秀栄の高橋が、手際よく差押動産の製造年月日を調べだしながら、一覧表に価格を入れている横で、早速、廣瀬がこれもどうですか、などと差押動産の物色を始めた。
「前田さんね、今日は差押手続きと明渡し期日の言渡しだけを行います。」
心配そうにうろたえる前田に、倉橋は説明した。
「今日、差押えた家財は、今日、持ち出すことはありません。競売の日までは使っていてもいいんです。」
「......。」
「そうそう、私、秀栄の高橋です。」
高橋が名刺を前田に差し出しながら、倉橋との会話に割って入ってきた。
「今日の差押えた家財の処分や明渡しの強制執行の手続き一切を、私が一手に引き受けます。」高橋は、愛想よく、更に付け加えた。
「後で、いろいろ相談に乗らせて貰います。」
そういって、また執行官と共に差押動産のリストを作り出した。
「おいおい、あまり人の家、かき回すなよ。」
執行官が無遠慮に箪笥などを開けて差押を促そうとする廣瀬に注意した。
「前田さんが見てるんだからさぁ。」
「だって執行官、差押動産が少ないと不調になっちゃうじゃないですか。」廣瀬は、顔色を変えずに、黙々と差押えのできそうなものの物色を続けた。
差押手続きの場合、差押禁止財産というのがある。これは、いわゆる衣類や食器などの生活必需品や一定の電化製品など、差押を禁止するものである。
近年は、この範囲が拡大し、整理タンス、洗濯機、洋タンス、調理用具、食器棚、冷蔵庫、電子レンジ、ラジオ、掃除機、冷暖房器具、エアコン、ビテオデッキ、そしてテレビは29インチ以下のものは差押えることができない。従って、賃貸住宅などの場合、あまり差押えられるものはなく、その価値が一定金額に満たないときは差押が不調となってしまう。
その為、差押え手続きのときは、なるべく多くのものを提示して差押えてもらう必要がある。
「これ、新しい鍵です。」
ジェイファーストの倉橋が、前田に交換後の鍵を手渡した。
「強制執行の前には、鍵を交換しないで下さいね。」そう言うと、もう一つの鍵を吉田にも手渡した。
「はい、お嬢さん、そちらの部屋も入らせてもらいますよ。」執行官は、前田の娘に自室から出るよう促した。
「お嬢さん、高校生ですよね。そのステレオ、お母さんから買ってもらったの。」
「いいえ、これは.....。」前田の娘は、口篭もって答えなかった。
「ん〜、随分ふるいステレオだね。」執行官は、そのステレオの製造元と製造年月を調べながら査定をした。
「このステレオは、お嬢さんが小学校じぶんの頃のものだから、きっとお母さんが買ったものだよね。」
執行官は決め付けるように言うと明細の一覧表に書き込んだ。
「やめてください。それだけは...。」前田が割り込んできて執行官に言った。
「それは私が買ったものじゃないんです。それは、はじめのものなんです。」
前田は、必死になって執行官に食い下がった。
「しかしね、小学生の娘が自ら買えるようなものでもないしね。」怪訝な顔で前田を振り払い、執行官は次の動産を物色した。
「やめてください。それは、私のものです。」
前田の娘は唇を噛み締め、執行官を睨みつけて言った。
「それは...それは、昔、私がお父さんからクリスマスにプレゼントで貰ったものです。」目には、いっぱいの涙が浮かんでいた。
その声に全員が反応し、しばし沈黙した。
前田の夫は、既に他界していた。生前は小さいながらも事業を興し、幸せな家庭を築いており、この娘も何不自由のない暮らしをしていた。しかし、突然の事故死。
零細企業の経営者にありがちなリスクマネジメントの欠如から、前田母子の人生が大きく変わると同時に、娘の非行が続き、ようやくそれが落ち着きだした矢先の強制執行である。
「それは、すまなかったね。」執行官は、前田の娘に言うと明細一覧表から「ステレオセット 2000円」の文字を削除した。
執行官の顔が一瞬、父親の顔になっていた。
・・・続きは、また、お届け致します!
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